心にナイフをしのばせて

心にナイフをそのばせて(文春文庫) (著)奥野修司

おすすめ度 ★★★★☆

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1969年4月23日、その年学校へ入学したばかりの少年が左腕を切られて流血した状態で保健室に担ぎ込まれた。時間は午後4時をまわっていた。その傷口は集まった教師がひるんだほどに深かった。介抱しようとする教師達に向かって少年は次のように叫んだ。「おれのことはいいから、先生、早く行ってくれ。加賀美君が大変な目にあってるんだ」「頭のおかしなヤツが、日本刀を持って暴れているんだ。先生、早く行ってくれ、もう加賀美君は殺されているかもしれない」(p15)
急いで駆け付けた教師達はまもなくすさまじい光景を目の当たりにする。「何人かの先生と手分けして捜していたら、私の先に加賀美君の死体があったんです。蠅とかウジのようなものがたかっていてワイシャツは真っ赤でした。何よりも首が胴体からおよそ十数センチほど離れて、つつじ畑のあぜ道に転がっていました。すさまじい光景で、しばらく私は、寝ることができないほどうなされました」(p17)
警察の捜査で犯人はすぐにわかった。左腕をケガして担ぎこまれていた少年だったのである。

この本は殺された加賀美君のその後の家族の姿を追っています。思うに殺人事件などが起こったらニュースでも裁判でも関心はいつも加害者の方であって、被害者遺族のことは忘れられがちになっていると思います。加害者が未成年の場合はとくにそうです。更生して社会復帰するために様々なサポートを受けられる。例えばもう一人の少年Aである神戸連続児童殺傷事件のサカキバラだって医療の一環として「疑似家族」などつくるなど更生のために様々なサポートを受けています。それに対して被害者やその遺族にはどんなサポートがあるんでしょうか。家族を殺されたあげく見捨てられた者たちの魂の叫びがこの本にあります。

ちなみのこの事件の加害者は社会復帰したあと大学、大学院をでて弁護士になっています(現在は廃業)